今年も卒業生たちを見送った。 卒業生を見送るのは毎年のことだが、今年はわりと長くつきあいがあった学生たちが多かった。もっぱら私の専門ゼミの学生たちだが、入学当初からずっと関わりのあった学生もいる。2年半前に専門ゼミで受け入れた14名の学生のうち、1人は退学、1人は早くから留年が決まっており、1人は留学中、残り11名が卒業となった。卒業する11名がそれぞれに次の社会的ステップを何とか決められたことはゼミ担当者としては少し安心させられる。 ちょっとだけ感慨を記したい。 長く学生をみていて痛感させられたのは、人は一人一人全然違うんだ、という当たり前のこと。 教師の認識というは粗雑になってしまうところがあって、ずらりと並んだスーツ姿の新入生や教室でがやがやしている同じような年齢の学生たちをみると、なんだか似たような人たちのようにどうしても錯覚してしまう。同じ年齢、同じ世代、同じ日本人、だいたい関西人。それに、たくさんの試験の採点などをしていると、より「理解できている」かより「できてない」という2次元で判断しがちだ。例外は、相談をもちかけてくる学生とか退学しそうな学生といった、目に見える問題を抱えた学生で、彼らには注意深く関わろうとするが、その他の学生は「とくに問題なし」というくくりに入れてしまいがちだ。 だが、実のところ、「とくに問題なし」の学生だってそれぞれに問題を抱えているし、誰もがそれぞれの事情や思いのなかで生きている。そうした固有性の高いところまで、教育システムや教師の配慮というのはなかなか届かない。長くつきあうなかで、彼らががんばったり手を抜いたりへこんだり、就職活動したりさぼったり、卒業するためのドタバタをやたりして、そうしたことを、ずっとみていくなかで、また彼らの両親と接触する機会があったりするなかで、ようやくそうした固有のもの、他の誰でもないその人自身の姿が見えてくることもある。1セメスター程度では私にはなかなかみえないような、そうした彼らの固有性とは、いつも私の浅薄な予想や理解の範疇をはみでるようなものであったし、おそらくは本人も十分に自覚はしていないようなものであるように感じられる。そして、私は結局は彼らのことを最後までたいしては理解するには至らなかったとも思う。 教育関係の業界では、学生を育てるとか成長させるといったことが、簡単に言われる。間違った目標だとは思わないし、教育業界には業界なりの都合があるのも分かる。だが、一人一人の人が抱える事情や思いといった彼らの固有性にまで達するのは組織的・計画的にできるものではないし、固有性にまで響くような働きかけができないなら、本当は「成長」を望むことなどできないのだろう。だから、「成長」とは本来、教育機関や教師の領分ではありえないのだと思う。「指導」とか「成長を促す」といったことは、大抵の場合、業界内のゲームのなかの言葉遊びでしかないように私には思われる。 教師にできることは、業界の都合に流されることなく、学生たちがその固有のリズムのなかで生きていくことの、ごくささやかな後方支援をする、という程度かなと思う。成長をする主体は彼ら自身であり、しかもそれは彼らの意志や意識とは少しずれた場所に根ざす彼らの固有のリズムのなかで行われるのだと思う。後方支援とは、うまくいえないが、彼らの固有性のありかを察知しながらもそこには踏み込まず、彼らのまだ未熟な意志や意識に働きかけ、彼らの意識の風通しをよくするようにする、というようなことであろうか。いや、もちろん、それすら少しも簡単ではない。人生はいつも人智を超えるのだ。 さらにいえば、そうした「成長」なるものは、目につかない、喪失や歪み、あきらめや衰弱などをともなうものであり、手放しで「成長」を語ることは軽薄だと思う。だが、成長を語る教育関係者や「社会人」の言葉を気のない表情で聞き流しているのも、まさに彼らの固有性のなせることだと私には思える。 だが、いわゆる「社会」は冷徹で、個々の社員の固有性など理解することも配慮したりすることもあまりないだろう。それでも自分自身の人生の決定権者は、他の誰でもなく自分自身にあることをわかっていてほしいなと思う。いや、きっとそんなことも、彼らは、彼らの固有のリズムのなかで、身体的にとっくにわかっているのだろうとも思う。
by kohkawata
| 2014-03-26 17:07
| 現代日本の文化
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