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『永遠の語らい』と元町映画館

 先日、マノエル・デ・オリヴェイラの『永遠の語らい』(2003年)を神戸の元町映画館という所でみた。

 まあなんて素晴らしいポエジーにあふれた映画なんでしょうね、と淀川調に言ってみたくなる映画。

 歴史家の母親とその幼い娘がポルトガルからムンバイへと船旅をする。マルセイユ、ポンペイ近く、アテネ、イスタンブール、エジプトなどに寄港していくのだが、母親はその度に娘に名所旧跡の説明をしてやり、そうすることでヨーロッパ文明の流れがパノラマ的に示される。この時映し出される都市の空気がなんともすばらしい。1908年生まれの監督はこの映画を公開した年には、95才になっていたということになるが、その年でこんないい映画を撮れるなんて、まったく理解も想像もできない事態だ。

 映画のハイライトは、この母娘とは直接関係はないのだが、それぞれにキャリアを積んできた三人の女性(カトリーヌ・ドヌーブ、ステファニア・サンドレッリ、イレーネ・パパス)とジョン・マルコヴィッチ演じる船長との客船のダイニングでの会話のシーンである。四人は、人生と文明を、(なぜかそれぞれ別の母国語で)延々と語りあうのだが、演技に味わいがありすぎて、これはもう私の好きな東アジアの映画では撮れないレベルだなとほとほと関心させられる。

 だが、会話の内容は次第に不穏なものになっていく。四人はヨーロッパ文明の衰退を嘆きはじめ、アラブ人たちへの悪意ある会話をする。そして、この語り合うばかりの静かなはずの映画は最後に急転する。アラブのテロリストが船に爆弾をしかけたらしい、全員待避せよ、と。逃げまどう人波のなか、歴史家の娘は、船長がアラブの町で買ってプレゼントしてくれた人形を連れて行こうとして、船室へと戻っていく・・・

 映画のメッセージはあきらかだ。古代ギリシアにはじまり民主主義と科学技術を生み出した偉大なるヨーロッパ文明は、この優雅な客船に乗った偉大な俳優たちと同じように、今滅びつつある。その元凶は、庶子を先祖とするアラブのイスラム教徒たちにある。彼らがキリスト者を迫害しテロによってすべてを破壊しようとしている・・・

 ここには老いた人にわりとよくみられる迫害的な意識がみられるし、またヨーロッパの人の自分たちの文明にたいする動かし難い自負も感じられる。蓄積された文化に裏打ちされた素晴らしいポエジーに満ちた映像とあられもない差別的な迫害意識、その両者の不思議な同居は、たしかにこの老いた天才ではなければできないものなのかもしれないと思わせる映画であった。

 ところで、この映画を上映した元町映画館は、この8月に開館したもので、映画好きの有志が力をあわせてつくった映画館であるようだ。神戸の元町のアーケード街のなかにあるかわいらしい映画館で、こういうところにいい映画を上映する映画館があったらいいなという気持ちが伝わってくるような気がする。

 最初の上映作品は、『赤毛のアン』と『狙った恋の落とし方』(原題『非誠勿擾』、2008年)であった。後者は中国本土でかなりヒットした映画であるが、この映画は、まったく日本人好きしない顔の俳優葛優を視点人物としているうえに、後半は北海道をいかにも外国人の好みにそくして旅してまわったりしていて、全体として日本人にはおもしろさがわかりにくい映画だろう。今回の『永遠の語らい』も、たしかに素晴らしい映画ではあるが、よほどのヨーロッパびいきでなければ非欧米人には受け入れがたい部分をもつ。

 今の時代とても難しいことだと思うけれども、なんとかいい映画を選び続けて、この映画館が続いてくれたらいいなと勝手に思う。
by kohkawata | 2010-10-14 19:31 | 欧米の文学 | Comments(0)