もうすぐトランプの時代になる。思うことを雑然と書いておきたい。後でふりかえれば、ピント外れの心配だったということになるかもしれないが。 次期大統領ドナルド・トランプは、愚かな人である。世界中の大多数の人がそう感じているだろうし、私もほぼ確信をもってそう思う。 社会学者のテオドール・アドルノという人が、第二次世界大戦終了後の米国で「権威主義的パーソナリティ」の研究をしている(田中義久・矢沢修次郎『権威主義的パーソナリティ』青木書店)。 ユダヤ系ドイツ人であった彼は、母国でナチズムの吹き荒れるのを体験して、偏見にまみれやすく差別に走る恐れの強い、「潜在的にファシスト的な個人」というのがどの社会にも一定数いるとして、そうした人の人格を「権威主義的パーソナリティ」と名付けた。 どんな人格傾向があるのか。簡単にいえば、権威あるものには簡単にひれ伏しやすく、弱いものには笠にきて攻撃的になりやすい。複雑な現実をしっかり理解し受け入れようとする知性に乏しく、自分の都合にいいステレオタイプなストーリーにとびつきがち。また、男性であれば、自分が男であることを誇り、異性をもののように扱い差別的である。総じて言えば、反民主主義的で偏見にまみれやすく差別的である。 トランプの伝記を2冊読み、また彼のtwitterを覗いてみたが、そこから判断するかぎり、トランプは、この権威主義的パーソナリティの特質にほぼぴったり当てはまる。つけくわえるならば、トランプは自分の力を誇大視する傾向が普通の権威主義者よりも強いと思われる。 もちろん、わざわざアドルノの古い研究を持ち出さなくても、トランプという人が、そういうだいぶ困った人だというのは、ちょっと彼の言動に接すれば誰にでもわかるはずだ。あんなに分かりやすい悪役というのは珍しいほどで、ちょっとアホなコメディ的な悪役がぴったりだと思う。大統領になるのではなくて、何らかの人的な支援が必要な人にみえる。 そんな困った人が、世界の「主権者」になる、ということだ。米軍は世界最強の軍隊であって、米国大統領はその総指令官なのだから、一定の局面では誰も彼にかなわないし止められない。もちろん、大統領も国内法の拘束を受けその力は限定的だが、対外戦争にあってはある種の超法規的主体としてかなり恣意的な暴力を行使しうることを、アフガニスタンやイラクでの戦争で、私たちは思い知らされてきた。 そして、我が日本国は、国内にかなりの規模の米軍の駐留を余儀なくされている。核兵器の持ち込みさえも行われているらしい。他の地域以上に、強く深く、あのトランプの力のもとにある、ということだ。 最悪のリナリオは、トランプが後先を考えずにその軍事力を大規模に行使することだろう。政治的にも、経済的にも、心理的にも、戦争を起こしたい人たちはいる。戦争は人道にもマクロな利益にも反するはずだが、局所的な利益の誘惑を排してマクロな判断をするべき人が、トランプになってしまったということだ。 東アジアにはいくつかの政治的・領土的火種があるが、トランプが焚きつけたりしないか心配である。すでに、台湾政府関係者がトランプ周辺に接触して影響を与えているようだ。中国政府の言動の多くが理にかなわないのはもちろんだが、だからといって米国大統領が軽々しく方針を転換するのは危険だ。 絶望的だろうか。たぶん、まだ絶望するほどのことではない。これほどわかりやすい、したたかさもない「悪」は、米国内でも国外でも絶えず反発と抵抗を生むに違いない。最善のシナリオは、総スカンを喰ったトランプがさっさと大統領職を投げ出すことだ。 もしもトランプが4年間大統領であったとしても、それでも絶望的ではないかもしれない。トランプのように世界全体や将来世代のことではなく、目の前の利益を追い求める態度は、情けなく有害であっても、資本主義と相性がよい。恐ろしいことだが、戦争もまた資本主義と相反するわけではない。誰が犠牲者になるかは、ルーレットのような偶然性がある。その時まで、絶望するべきではない。 それに、論理が飛躍するようだが、世界の「主権者」たる人物が無責任なアホだと見切ることは、必ずしも悪いことではないと思う。主権者がアホで世界は無責任でも、私たちは生きていかなければならない。個人的な信頼関係があるわけではない人をあてにするのは愚かだ。それはトランプ前もトランプ後も変わらない。
by kohkawata
| 2017-01-18 19:57
| 雑談
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